変化し続けるための「58面のデジタルサイネージ」
MIYASHITA PARKは単なる商業施設でもなければ、従来の公園でもない。その二つの機能が融合した、都市の「間(あわい)」にある空間だ。新たに導入された58面のデジタルサイネージは、この曖昧な境界線を持つ場所だからこそ可能な、メディアの実験である。なぜ、商業施設と公園が融合した空間にサイネージが必要だったのか。國嶋氏は、その背景にある「施設のメディア化」というコンセプトについて次のように語る。
『元々のテーマとして、施設そのものをメディア化しようという構想がありました。これまではテナントが入居しビジネスを行う「場所貸し」が基本でしたが、トレンドの移り変わりが激しい渋谷においては、ハード(建物)も常に新しいものへとアップデートしていく仕組みが必要です。日常の賑わいを作り出し、常に変化し続けるための装置として、この58面のサイネージを導入しました』。
商業施設と公園、ホテルが一体となったMIYASHITA PARK。その多様性を象徴するように、サイネージは単なる広告枠としてだけでなく、街の情報を循環させるハブとして機能し始めている。
建築とプロダクトの「間」をデザインする
公共空間である公園にデジタル画面を設置することは、商業と公園が同居している「MIYASHITA PARKらしさ」が損なわれては本末転倒だ。そこで手腕を振るったのが、設計当初から携わる三井氏だ。同氏が目指したのは、商業的な主張の激しい広告塔ではなく、公園の風景に溶け込む「建築的なメディア」だった。
『最も意識したのは、公園らしさを損なわずに設置するバランス感覚です。広告に包囲されているような圧迫感は、憩いの場にはふさわしくありません。だからこそ、サイネージ単体で目立たせるのではなく、柱と同じ素材でケーシングを作ったり、建築のディテールに寄せたりと、「建築とプロダクトの中間」のようなデザインを心がけました』。
巨大な画面で圧倒するのではなく、アウトモール(屋外通路)の柱の連続性を活かし、歩くリズムに合わせて情報が目に入る配置。それは、情報と風景の「間」をデザインする試みでもあった。
『渋谷は、歩く中で偶然面白いものに出会う「セレンディピティ」が重要な街です。サイネージにおいても、広告だけでなく、アートや音楽、イノベーションといった多様なコンテンツがグラデーションのように混ざり合い、偶然の発見に繋がることが、渋谷らしい体験なのだと思います』。
広告とアートが混ざり合う、渋谷の縮図
「DIG SHIBUYA 2026」では、この58面のサイネージがフル活用される。世界中から公募で集まった300点以上のデジタルアート作品が、商業広告や行政情報とミックスされながら放映される予定だ。
『これまでは「広告枠」と「アート枠」を分ける議論になりがちでしたが、今回はそれらをあえて混ぜ合わせます。商業的な情報もあれば、区の防災情報もあり、そして最先端のアートもある。その混沌とした多様性こそがMIYASHITA PARKらしさであり、渋谷という街の縮図なのです』と國嶋氏は期待を寄せる。
また、この場所は「渋谷区立宮下公園」という公共空間でもある。
『民間ビルにサイネージをつけるのとは、プロセスも責任も異なります。条例などに丁寧に対応しながら、いかに公共性と収益性、そして文化的価値を両立させるか。設計段階から運営チームと議論を重ねてきたからこそ実現できた、官民連携のひとつの在り方だと捉えたいです』と三井氏。
あらゆる境界線の「間」に立つ場所として
DIG SHIBUYA 2025では駐輪場の壁面などを使って行われていたアート展示が、今回は表舞台であるメインストリートのサイネージへと進出する。玉石混交のエネルギーが、洗練された建築空間に注ぎ込まれる。
『雑多なものも、高尚なものも、すべてを受け入れる懐の深さがこの場所にはあります。DIG SHIBUYA 2026を通じて、普段アートに触れない人々が偶然作品に出会い、そこから新しいコミュニケーションが生まれる。そんな化学反応を期待しています』と三井氏は続ける。
商業と公共、建築と情報、そして広告とアート。あらゆる境界線の「間」に立つMIYASHITA PARK。「DIG SHIBUYA 2026」は、その曖昧さが生み出す熱量を実証する3日間となるだろう。